レビュー
ストーリー概要
主人公:詩月は学校帰りに寄り道した湖で何者かに突き落とされてしまう。
異空間『湖都』で目覚めた詩月は湖都で出会った同級生や過去に行方不明になった友人と協力し湖都からの脱出を目指す。

ゲームの特徴
RPGツクール製定番の探索、謎解き、ホラー要素が含まれつつストーリーに重きが置かれたゲーム。
・探索
探索型ホラーゲームでは一本道の進行が多く、次のエリアへ進むと前のエリアに用はなくなることが多い印象だけども、本作では各エリアを繋ぐハブエリア(町)が存在し、決まった範囲内での探索が中心となるため、一度探索し終えた場所へ再び訪れる機会がある。

ゲームの進行によって環境が変化し、この世界で時間が経過していることを実感できる仕様が魅力のひとつ。変化によって新たな発見が生まれるだけでなく、プレイヤーに不安や緊張を抱かせる演出としても機能している。
ただ、時には何の誘導もなく、探索を終えたはずのエリアが変化していることがあり、迷った際に総当たりで探索し直すことがある。この点に関しては手間がかかると感じる場面もあった。
・謎解き
謎解きの基本的な流れは探索でヒントを見つけ、それをもとに入力する場所を探して解答するというもの。
一部の謎解きは難易度が高めで、ヒントから発想を広げられなければ解答にたどり着けない場面もある。また、暗記が得意でない場合、メモやスクリーンショットを活用しないと解き進めるのが難しいものも含まれている。
Steamには『行き詰まった方向け攻略』のガイドがあるけど、すべての謎解きを網羅しているわけではない。
ヒントや謎解きなどストーリー進行上で調べることになるポイントは光っていたりアイコンが出ていることが多いけど、たまに何の表示もないところがある。最序盤の先端が赤くなっている枝に気づかず延々迷ってたところが個人的には一番時間が掛かったところかもしれない。

・ホラー
正体不明の怪異的存在『霊湖』は常に襲ってくるものではなく、特定の追いかけっこイベント中のみ脅威となる。失敗するとゲームオーバーだけど追いかけっこ前にセーブはさせてくれるので理不尽さは感じにくい。欲をいえばタイトル画面に戻らず自動で再開してほしかったけど。
追いかけっこ中にパスワード入力やQTE要素が組み込まれているからだろうけど、何かを調べてメッセージが表示されている最中でも霊湖が動き続ける仕様は、関係ある場面は少ないもののメッセージが落ち着いて読めないこともあってややストレスに感じる点だった。
ホラー演出は控えめで、恐怖をじわじわと煽るというよりはジャンプスケア寄り(ビックリ系)の驚かせ方が中心となっている。デフォルト設定ではBGMと比較してSE(効果音)の音量が大きめに設定されているため、不意打ちの演出がより強く印象に残る。苦手なら音量調整でSEの音量を個別に下げるといい。
・ストーリー
優れたストーリーの探索ホラーゲームは数あれど、これだけ登場人物一人ひとりに細やかな背景や思惑が与えられ、人間関係まで綿密に構築された世界観を持つ作品は珍しい。
異空間からの脱出を目指すという定番ストーリーで主要人物10人弱は一見多いように感じるけど、舞台となる湖都で明らかになる真実と各々の回想を通じて語られる出来事が絡む合うことで、物語の進行に不要なキャラクターは一人もいないと言える。
さらに脇役のキャラクターたちも、会話の中で得られる少ない情報によってその背景を想像する余地が生まれ、全ての真実を知ったときに見方が変わる瞬間があるのも魅力になっている。
はじめは何もわからない舞台となる湖都、脅威となる霊湖、その他世界観を形成する設定について曖昧なもので終わらせず理由付けと解決まで描き、その完成度の高さが窺える。
物語の舞台となる湖都や脅威として存在する霊湖。そのほか世界観を形作る設定の数々は、曖昧なまま終わらせるのではなくしっかりと理由付けがなされ解決まで描かれている。そのため物語全体の整合性が保たれ世界観の完成度の高さが際立っている。
・ボリュームとエンディングについて
探索と謎解きにどれだけハマったかによるだろうけどクリアまで6~8時間目安。
個人的にはこれほど練り込まれたストーリーを持つ作品なら、探索や謎解きの比重をもう少し抑えて物語のテンポを良く見せてくれても面白かったように思う。
エンディングは1周目は固定エンド。タイトル画面にオマケが解放され真エンドの条件を確認できる。
1からプレイし直す必要はないためセーブは小まめに残しておくといい。
クリア後感想(ネタバレあり)
おおよその感想は上で書いてしまったので各キャラクターについて思うことを書くことにしよう。
※クリア後のネタバレを含みます
・詩月
プレイ開始時はストーリーの都合で記憶喪失になっただけの冴えない主人公かと思っていた。しかし、物語が進むにつれてその設定が巧みに回収され、ストーリーの核心に迫る最重要キャラクターとしての役割を確立していった。結果的にただの記憶喪失の主人公ではなく、物語を動かす存在として説得力を持たせた構成は見事。
舞に関する物語中心のためか、これだけ家族に関するエピソードがある中で主人公なのに家族エピソードが薄めなのは終わってみると気になってきた。
・子樹
子樹については(実は血の繋がりがない)両親から認めてもらいたかった子ども心があるとはいえ詩月と優花を湖に突き落としたことはやり過ぎてて、しかも湖都のことを信じてなかった上での行動ということもあって感情移入はあまりできなかった。これは子樹と王石夫妻の家庭環境を知るエピソードがもっとあって、子樹が認めてもらいたいと思うところに納得できたらまた違ったかもしれない。
とはいえ、それも真エンドルートで発生するイベントへの布石だったのなら上手いとしか言いようがない。
・優花
完全に巻き込まれた被害者だけども、天野家のオーバーテクノロジーを証明し子樹を救える重要な存在だった。真相が明らかになったとき子樹との関係性が複雑(血の繋がりとか)に思えたけど本人たちがそこを言及しないからきっと問題ないんだろう。
・仙
寿海の正体に気づけるのが終盤だったからそれまでの不信な行動の理由がわからず、プレイ中は最も意味のわからなかったキャラクター。また1からプレイすればいろいろと気付く点もあるのだろう。
記憶体の寿海に目を瞑るように言われたときの察しの悪さはわざとかと思ったら素だったとは。
・寿海
仙の物語を描くための役割ともいえるけど、湖都に来たばかりで不安な詩月たちを支える大事な役割もあったといえる。本物が人間に戻ったとき記憶体の記憶を引き継げばいろいろ丸く収まるとこだけど、そこは仙の葛藤に意味がなくなるからあえてそうしたんだろう。
・舞
詩月の記憶喪失部分の重要なキャラクターで二人のほのぼのエピソードは作中数少ない癒し。
天野家を追い出された経緯とか新しい家族の話とか意外とわからないことが多いままだった。
・三日
思わせぶりなセリフや反応が多かったから実は敵パターンを見越して警戒してたけど普通に良い人キャラだった。クリア後のキャラ部屋に行くまで能力のことは気付かなかったからあまり理解は出来てないんだろうな。しばらく男だと思ってたし。
・統
父親を殺し天野家を壊滅させた時点でなくなっているはずの家のしがらみに囚われ続けてしまい救いのなかったキャラクター。各家の当主たちは遠慮なく殺したり利用するけどその子どもたち(仙や三日とか)は関係ないと騒動から遠ざけようとしているとこは好感持てた。
・空
相原家を天野家から遠ざけようとしていたらしいけど具体的に表で何かしてたって描写がないからいまいち存在感がない。
・零
零の存在を知った上でもう一度プレイしたらまた思うところが出てきそう。地上から制限付きでいろいろ手を出してくれてたけどいっそのこと湖都に来てくれてたら一気にいろいろ解決してたようにも思うバランスブレイカー。あの力があれば統がいても問題ないよね。
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