中華圏の『拾英工作室』が開発した海外インディーズゲームながら1990年代の日本を舞台にしたRPGツクール製のアドベンチャーゲーム黒森町奇譚(英名:Tales of the Black Forest)をプレイしたので『ネタバレなしレビュー』と『クリア後のネタバレあり感想』を書いてみる。
ネタバレなしレビュー
主人公は女子高生の希原夏森(きはらかしん)。
気が付くと昔住んでいた黒森町の隣にある鹿鳴村の駅にいた夏森は謎の少女:桐谷雪と出会う。二人は黒森町に隠された秘密を明かしながら協力して町から出る方法を探っていく。
ゲームとしては探索と謎解きをしながらストーリーが進む方式。
幽霊や妖怪の類が出てくるホラー要素はあり、定番の鬼ごっこは少しあるもののオートセーブで失敗しても復帰は早く難易度も易しめ。
ゲームスタート時に表示されるのでネタバレにならないと思うが『この物語は、実在する事件をもとに制作されています。』とあり、開始数分でどの事件がもとにされているかわかる。
※あくまでモチーフにされているだけのフィクションなので予備知識は必要ない
この事件と黒森町、そして登場人物たちにどういった関係があるのか章構成で各章ごとに一定の区切りをつけながら終章にはちゃんとすべて明らかにしてくれる。
事件の真相や登場人物たちの思いが明らかになったとき、それが悲劇か救いのある結末だったかここでは書けないけど、とても心揺さぶられたことだけは書いておきたい。
このゲームは間違いなくストーリーに重きが置かれ、それが良質であることは保証する。
ドット絵の質も相当良い。また、謎解きと関係のない調べられるポイントが非常に多くて1990年代を感じさせるオブジェクトと説明の一文が海外産とは思えない作り込みを伝えてくれる。ただ、その辺り懐かしいと思える知識がないと意味のないものになってしまうのは仕方ないが残念。
日本語の翻訳は違和感なし。主人公の夏森(かしん)の読み方が特殊に思うくらいで、他の登場人物は一般的な日本人の名前と読みをしている。
※以下、重大なネタバレは含まないゲームのボリュームやエンディング分岐について
3章+終章で各章1時間ちょっとの合計4~5時間のボリューム。
終章は選択によって2つのエンディングに分岐するが、分岐のフラグや取り返しのつかない要素はなく、選択前にシステムメッセージで任意セーブを薦められてエンディング回収は簡単なのでそういったことは気にせず思いのままにプレイできる。
良質なストーリーとグラフィック、実在した事件と日本の文化などしっかり調べたことがわかる作り込み、クリア後の満足度を含めて個人的にRPGツクール製としては最高の体験になってくれたと思う。
ネタバレありクリア後感想
章ごとの感想を。
・第一章『鹿骨怪談』
カルト集団『真理天堂』の信者が引き起こした毒ガス事件とその容疑者が鹿鳴村の住民だったなど物語全体の軸となる謎が提示されていきながら、この章ではかつて祀られていた栄枯様についてと人間の世界に憧れる狐の一族『玉前静』を手助けする話。
栄枯様は人間からの信仰が失われながらも人間の世界に憧れる玉前静を後押しして静かに去っていく姿は悲しくも心が温かくなった。玉前静を逃がしているとき『最後は捕まってひどいことになりそうだなぁ』と勘繰っていたけど、なんだかんだ上手くいってその後夢をしっかり叶えていることがわかったのは本当によかったと思えた。
栄枯様は最後に蘇ったのか最後の力で手助けしてくれたのか人が去って陰鬱だった鹿鳴村を色づかせてくれた。でも間もなくダムに沈む地なんだなぁと思ったらやっぱり物悲しい。
・第二章『猫の列車』
陰鬱とした鹿鳴村と打って変わった黒森町の街並み、生活感のある玉前静の隠れ部屋、雰囲気の良い猫カフェは心が洗われドット絵の良さをより味わえた。
とはいえ毒ガス事件の二人の実行犯の過去を追体験するパートで話が重たくなり、狂気に落ちた男と心が不安定のまま偏った思想に踊らされた女子高生の悲劇は心にずしりとくるものがあった。
毒ガス事件に関する記事で実行犯の女子高生の名前だけさり気なく仮名になっているのはリアリティを感じたね。
そして猫カフェで知り合い行動を共にしていた相沢真の正体とその最後は、傍から見たら美談だけどそこに至る経緯を知ると複雑な心境にさせられた。
・第三章『妖怪映画』
劇場毒ガス事件と夏森(の両親)の関係が明らかになっていく話。
実行犯になってしまった安藤恵はカルト集団の信者ではなかったけど、ストーカーに夢を台無しにされ前章の女子高生のように心が不安定になった所をそそのかされてしまったのだろう。結局怖いのは人間なんだよね。
話の本筋とは関係ないけど一人の女性を思って待ち続けていた妖怪の話は短くもよかった。このゲームはこういう何とも言えない不思議な気持ちにさせてくれるのが随所で上手いんだ。
・終章『夏花冬雪』
桐谷雪の正体、夏森と桐谷の関係など全てが明らかになる終章。
豊神の力を使える神宮と崇め奉られた桐谷雪は鹿鳴村のために尽くしていたのに長い年月を経て信仰が徐々に失われて、それでも豊神の力がなくとも村がやっていけるようにと村の開発を薦める姿はかつて豊神の前に信仰されていた栄枯様と被るものがあった。
それがバブルの崩壊をきっかけに開発が中止となって、夏森と綾子(母親)の事故に繋がり、心の拠り所を失った住民がその後カルト集団にそそのかされて事件を引き起こしてしまう流れは悲惨としか言いようがない。バブルの崩壊は誰かのせいにしようがないし、作中でも言われている通り夏森の父親が途中で開発を諦めていても時代の流れで他の誰かがやっていたことだろうから希原一家や桐谷雪のせいとは言えないだろう。とはいえ、ちゃんと主人公の希原夏森に過去あった事件との関係性を持たせて、夏森の持つ不思議なモノが見える体質への理由付けもしっかりされて、エピローグには時間がそれを解決してくれることに説得力を与えている設定の無駄のなさは本当によく出来てる。
カルト集団と毒ガス事件がモチーフにされているのはゲーム開始してすぐにわかるけど、日本のバブル崩壊まで実は物語に組み込んでいたのは上手いよね。
エピローグで失っていた事故以前の記憶を取り戻し、ギクシャクしていた父親との関係が修復されるきっかけができた締めは儚くも救いがあってとてもよかった。
最後に愛読書の作家が劇場毒ガス事件の黒幕だったことに気づくとこは現実の方のカルト集団の後継団体が未だ残っていることを示唆しているのか何もかもが解決したとはいえない怖さを残したよね。見えない幽霊より人間の方がよっぽど怖いや。
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